賃貸住宅の引っ越しでは、引っ越し業者に支払う費用のほかに新居の敷金や礼金、前家賃等の初期費用がかかります。特に、敷金が十分に戻ってくればよいですが多額の「原状回復費用」を請求され、トラブルになるケースも多くあります。

国民生活センターによると、敷金返還のトラブルに関する相談件数は2020年度に約1万2000件で、返還時に貸主側が原状回復費用などと称し、借主側に多額の負担を求めるケースが目立つといいます。

 

賃貸住宅では退去する際に入居者側が原状回復の費用を負担することがありますが、その費用は入居時に支払った敷金から差し引かれるのが一般的です。本来、原状回復で負担の義務を負う範囲は【通常の使用による摩耗を超えた部分】に限られます。しかし、実際には入居者が納得できる範囲を大きく超えた請求をされる場合が少なくないといいます。

まず、知っておきたいのは入居者側が負担すべき範囲で、国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」を参考にするとよいでしょう。例としては下記のようなケースがあります。

 

<入居者の負担なし(貸主側が負担)>

・家具の設置による床のへこみ

・畳の変色、フローリングの色落ち

・テレビや冷蔵庫の後部壁面の黒ずみ

・壁の画びょうの穴

・破損していない網戸の張替え

 

<入居者が負担(敷金から差し引かれる)>

・引っ越し作業で称した床のひっかき傷

・タバコのヤニ汚れや臭いのついた壁紙

・飼育ペットによる柱などのキズ

・クーラーの水漏れ放置による壁の腐食

・落書きによる汚れ

・下地の張替えが必要なクギ穴

・キッチンのひどい油汚れ

 

入居者が責任を負う場合でも、原状回復にかかる費用の全てを負担する必要があるとは限らず、汚してしまったり傷つけてしまったり部分のみの張替え費用だけを負担すればよい、というのが原則です。経過年数や耐用年数も考慮されており、壁紙の経過年数は6年とされているため丸6年住めば壁紙の張替え費用は原則負担する必要はありません。

実際に退去する際には、原状回復の請求内容をよく確認し、国交省のガイドラインを参照したり、必要に応じて消費生活センターに相談したりすると良いでしょう。